ひとことに「相続」といっても、相続人はどの範囲なのか、そしてその相続分はいくらになるのか、個別の案件を解決するにも、まずは法定される一般的な制度概要をしっかりと把握する必要があります。
ここでは相続について、その制度内容を網羅的に解説します。
相続とは
相続とは、自然人の財産上の権利・義務を、法律又はその者の最終意思の効果として、その者の死亡時に、特定の者に承継させることをいいます。
また、法律の規定に基づいて生じる相続を法定相続、死亡者の最終意思に基づいて生じる相続を遺言による相続といいます。
相続の開始時期について
相続は死亡によって開始します。開始するとは、相続の法的効力が発生するということです。
当然のことをいっているだけのように聞こえますが、人が生物学的に死亡した場合のほか、法律的に死亡したとされる場合(死亡が法律によって擬制される場合)にも相続が開始します。
人の死亡を擬制する制度として、失踪宣告の制度があります。7年間生死不明の場合の普通失踪、危難に遭遇して1年間生死不明の場合の特別失踪の場合に家庭裁判所による失踪宣告が為されると、普通失踪の場合は7年経過時に、特別失踪の場合は危難が去った時にそれぞれ死亡したものとみなされます。よって、失踪宣告を受けた者については、その者の相続が開始します。
詳しくは別稿(「生死不明の行方不明者の相続、行方不明者が相続人にいる場合の相続手続について、高知の行政書士が解説。」)で触れたいと思いますが、失踪宣告の死亡したものと「みなす」という法的効果については、例え本人が生きていたとしても失踪宣告が取り消されるまでその効果が覆ることはありません。法律上、「みなす」という言葉については、反証を許さないということが含意されます。反証を成せばその効果が覆る「推定する」という言葉と区別して用いられるのです。
相続の効力について
相続が開始すると、被相続人の財産に関する一切の権利と義務は、相続人に相続されます。ただし、被相続人の一身に専属したものは相続の対象ではないとされます。
一身専属権には、委任契約上の権利義務や扶養請求権などがありますが、扶養請求権は内容が確定し履行期が到来したものは通常の金銭債権と異なることがないため、相続の対象となります。
権利が相続の対象となるかについては、細かな論点が存在しますので、>「借家権や保証債務など、相続により承継される権利と義務について、相続財産に含まれるかどうかの観点から高知の行政書士が解説。」で詳しく解説します。
相続人とその順位について
相続人の範囲については、まず、法定される相続人の範囲をしっかりと押さえることが必要です。
民法では、まず、相続人を血族相続人と配偶者である相続人に分けたうえで、血族相続人については、子を第1順位、親などの直系尊属を第2順位、兄弟姉妹を第3順位として規定し、血族相続人のうち被相続人の死亡時に生存している最優先順位の者が配偶者とともに相続人になるとしています。また、胎児にも、生きて生まれることを条件として相続権が認められます。
なお、直系尊属については、被相続人の死亡時に生存するより近い親等の者が1人でもいれば、それより遠い親等の者は相続人になりませんが、子及び兄弟姉妹の場合は、被相続人の死亡時にこの者たちが死亡等している場合にその者たちの直系卑属を相続人とする「代襲相続」が発生します。
代襲相続については、下記で少し詳しく触れたいと思います。
代襲相続について
代襲相続とは、被相続人の死亡以前に、相続人となるべき子、兄弟姉妹が死亡し、又は廃除され、あるいは欠格事由があるために相続権を失った場合に、相続人となるべきその者の直系卑属(兄弟姉妹の場合はその子に限る)がその者に代わってその者の受けるはずであった相続分を相続することをいいます。
これは、相続権を失った者が、相続していたら自らもそれを承継しえたであろうという直系卑属の期待利益を保護する公平の原理、及び、血縁の流れに従って上から下へ死者の財産を受け継がせようという価値判断に基づいた規定であるといえます。
ここで注意を要するのは、代襲相続が生じる原因は相続開始以前の死亡、廃除、相続欠格であり、相続放棄は代襲原因とならないことです。例えば、祖父が死亡した場合に、父が相続放棄をすると、代襲相続は生じず、孫が祖父を相続することはありませんが、祖父が死亡する以前に父が死亡していた場合には、孫が父が受けるはずであった相続分を承継し、祖父を相続することになります。
なお、子、孫やひ孫に死亡などの代襲原因があった場合、何代にもわたって代襲相続が発生しますが、兄弟姉妹の場合は1代限りすなわち叔父叔母を相続できるのは甥姪までとなります。
また、被相続人の子が既に死亡している場合に代襲相続できるのは、死亡している子の直系卑属すなわち被相続人の孫のみであって、死亡している子の配偶者には相続分がないことも押さえておくべきポイントといえます。
最後に、被相続人の死亡以前に死亡していることが代襲原因となりますが、以前すなわち「同時」の場合にも代襲相続が発生します。同時に死亡するというのはどういう場合かと少し考えてしまいますが、例えば、交通事故で複数の人が亡くなった場合、実際には死亡時間に数秒の差があることもあるかと思いますが、確認するのはもはや不可能といった場合においては、民法の規定により、同時に死亡したものと「推定」されます。
前述の「みなす」の個所で触れたとおり、「推定」される場合には反証が無い限り、同時に死亡したものとして扱われ、代襲相続の原因となります。
相続人の欠格事由と推定相続人の廃除について
上記の代襲相続で触れましたが、相続人の欠格事由該当と廃除は死亡と並んで代襲原因となります。ここでは簡単に、相続欠格と廃除を紹介します。
相続欠格については、被相続人等の殺害、被相続人への詐欺強迫、遺言書の隠匿などが欠格事由として民法第891条に規定されています。これらの重大な事由がある場合には、仮に被相続人がそれでも財産を相続させたいと望んだとしても、法律上当然に相続人たる資格を失うこととなります。
民法(抜粋)
(相続人の欠格事由)
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
2 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
推定相続人の廃除とは、被相続人に対して虐待や重大な侮辱をした相続人の相続権を、被相続人の意思によってはく奪する制度です。
被相続人の生存中に家庭裁判所への請求により、又は、遺言により行うことができますが、被相続人はいつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
なお、廃除による相続権のはく奪は、廃除された相続人の遺留分も否定するものである点で、一般的な遺言での措置と異なる効果を有します。(遺留分については、下記「遺留分について」を参照ください。)
法定相続分について
前述のとおり、誰が相続人となるかについては、配偶者と最優先順位の血族と法定されていますが、その相続分についても同じく民法に定めがあります。
配偶者である相続人がいる場合、配偶者と第1順位の相続人(子)の相続割合は配偶者1/2・子1/2、配偶者と第2順位の相続人(親など直系尊属)の相続割合は配偶者2/3・親1/3、配偶者と第3順位の相続人(兄弟姉妹)の相続割合は配偶者3/4・兄弟姉妹1/4となります。
さらに、第1順位、第2順位及び第3順位のそれぞれ血族相続人が複数いる場合には、被相続人とその親の一方を異にする半血の兄弟姉妹を除き、同一順位の者の人数で血族相続人の相続割合を按分したものが各自の相続分となります。例えば、配偶者Aと子B及び子Cの相続割合は、A1/2・B1/4・C1/4となります。
なお、半血の兄弟姉妹の相続割合は、被相続人と両親を同じくする全血の兄弟姉妹の1/2です。
相続人の内訳 | 相続割合 |
配偶者 ・ 子 | 1/2 ・ 1/2 |
配偶者 ・ 直系尊属(親など) | 2/3 ・ 1/3 |
配偶者 ・ 兄弟姉妹 | 3/4 ・ 1/4 |
配偶者がいない場合、最優先順位の血族相続人がすべての財産を相続します。
以上が法定される相続分ですが、この法定相続分は遺言による指定、特別受益、寄与分による修正を受ける場合があります。
遺言による相続分の指定については、「遺言とは? 遺言書作成の前提として押さえるべき知識を高知の行政書士が解説。」をご覧いただきたいと思いますが、特別受益者の相続分と寄与分については、ここで少し触れておきたいと思います。
まず、特別受益とは、相続人のなかに、遺贈や生計の資本等としての贈与など被相続人から特別の財産的利益を受けた者がいる場合に、それら財産は相続時にあったものと仮定したうえで各相続人の相続分を求め、特別受益者の相続分については求められた相続分から受益額を差し引いて相続割合を求める取扱いをいいます。一方、寄与分とは、相続人のなかに、特別の寄与によって被相続人の財産を増加させた者がいる場合に、増加分は相続時にはなかったものとして各相続人の相続割合を求め、特別の寄与者には求められた相続分に財産の増加分を加えて相続割合を求める取扱いをいいます。詳しくは、>「特別受益者の相続分と寄与分を高知の行政書士が解説。」をご覧ください。
遺留分について
遺留分制度とは、相続の場合に、相続人のために相続財産の一定部分を保障するための制度をいいます。被相続人による財産処分の自由と、相続人の生活の安定及び財産の公平な配分との調整を図る見地から定められており、被相続人の遺言の内容などがあまりに極端である場合には、相続人の生活を保障する制度として遺留分制度が機能します。
例えば、被相続人が遺言で、「全財産を慈善団体に寄付する」としたときに、被相続人の財産によって生活してきた相続人の生活がたちまち立ち行かなくなる場合も想定されます。このような場合には、遺留分侵害額請求が相続人に認められ、相続人は受遺者に対して遺留分が侵害された額を限度として金銭支払請求権を取得します。
詳しくは、>「遺留分とは。遺留分侵害額請求権等、遺留分制度を高知の行政書士が解説。」において記述しますが、ここでも簡単に遺留分制度の内容について触れておきたいと思います。
まず、遺留分がどの相続人に認められるかという点についてですが、兄弟姉妹以外の相続人すなわち配偶者、子及び直系尊属に遺留分が認められるのが原則です。加えて、胎児も生きて生まれれば、子としての遺留分が認められ、子の代襲相続人である孫にも被代襲者たる子と同じ遺留分が認められます。ただし、相続欠格、廃除、相続放棄により相続権を失った者には遺留分も認められないことに注意が必要です。
次に、遺留分の率についてですが、総体的遺留分は直系尊属のみが相続人である場合のみ1/3となり、その他の場合は1/2が遺留分の率となります。この総体的遺留分は相続人の全員が有する遺留分の合計が、それぞれ、直系尊属のみが相続人である場合に相続財産全体の1/3であり、それ以外の場合に相続財産全体の1/2となるということです。そして、各相続人の個別的遺留分は総体的遺留分に法定相続割合と同様の割合を乗じた割合で求められます。
例えば、配偶者A・子B・子Cを相続人とする相続の場合に、被相続人が遺言において「全財産を慈善団体に遺贈する。」とした場合、総体的遺留分は相続財産の1/2であり、Aの遺留分は相続財産の1/2×1/2=1/4、Bの遺留分は相続財産の1/2×1/4=1/8、Cの遺留分は相続財産の1/2×1/4=1/8となります。
相続財産の範囲について
ここまで、相続人が誰であるのか、その相続分はどれほどなのかということについて、それぞれこれらの例外規定も含めて解説してきましたが、最後に、相続の対象となる相続財産の範囲についてその概要を紹介します。
「相続の効力について」でも少し触れましたが、被相続人の財産に関する一切の権利と義務は、その一身に専属したものを除き、相続人に相続されます。ここでは、特にその権利義務の法的性質により相続性が論点となるものの解説は、>「借家権や保証債務など、相続により承継される権利と義務について、相続財産に含まれるかどうかの観点から高知の行政書士が解説。」に譲り、ここでは、その権利義務の帰属上相続人の固有の権利とされるもの等、相続財産に含まれないものを紹介します。
【相続人等の固有の財産とされるもの】
被相続人の死亡を原因として発生するものの、相続人等の固有財産として扱われるものの代表例としては、死亡保険金、死亡退職金、未支給年金などがあげられます。これら財産(金銭支払請求権)は、相続財産でないため、遺産分割協議の対象ともなりません。
ただし、死亡保険金等が多額であるなど、あまりに相続人間の公平が害される場合には、特別受益の持戻しの規定が類推適用され得るという点には注意が必要です。
【その他】
まず、財産と切り離して承継する者が定まるべきものとして、家系図や仏壇・仏具、墓といった祭祀財産は、相続財産と切り離してこれを承継するにふさわしい者が引き継ぐこととなります。承継者は、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所による指定の方法によって決まります。
また、香典は、相続財産ではなく喪主あるいは遺族への贈与とされ、葬式費用についても相続財産への請求は否定されます。
以上の財産については、相続財産でないため、相続放棄をした者も、一般論としては、承継又は取得することが可能となります。
ただし、例えば、被相続人が多額の借金をしながら死亡保険を掛け、相続放棄をした相続人がこの死亡保険を受け取った場合などは、相続債権者との関係で法的な争いが生じることも想定されます。このような場合についての解説は機会があれば別稿にて行いたいと思いますので、本稿では一般的な法解釈の範囲での記述にとどめます。
なお、相続財産と相続税の対象となる財産の範囲については、こちら(>「相続財産の範囲と相続税の対象財産の範囲の異同を、高知の行政書士が解説。」)をご覧ください。また、相続税に関しては、(>「相続税はいくらかかる?相続税のしくみを高知の行政書士が解説。」)もご覧ください。
まとめ
いかがでしょうか、誰が相続人で、その相続分がどのような割合で、いくら相続するのかをつかんでいただけたかと思います。しかし、実際の相続案件については、この稿で書ききれない細事についての法解釈が必要なこともありますので、困難な案件については専門家への相談というのも選択肢になろうかと思います。
最後に、いくら相続するのかということが判明したときに負債のほうが多かったという場合、相続放棄や限定承認という家庭裁判所への手続を検討することもあろうかと思います。この点については、>「相続の承認、相続放棄、限定承認を行政書士が解説。」をご覧ください。
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弊所は、高知県高知市中心部にて相続、遺言、後見といった家族法関係の専門事務所として、主に個人のお客様からのご相談に対応させていただいております。
高齢化の進む日本社会において、特にその進行が顕著な本県にあっては、弊所の提供サービスは社会インフラとしての価値をも有するものとの自負のもと、すべての人が避けて通ることのできない死の前後において、人の尊厳を守り、そのバトンを後世に繋いでいただくための支援に力を尽くしていきたいと考えております。
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行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
Profile
1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。