相続人以外の者に財産を遺したい場合、不動産を多数所有しており遺産分割協議で揉めてほしくない場合など、遺言制度は自身の財産の死後の承継先を定めるために利用されます。
ここでは、遺言制度の全体像を以下のとおり解説します。
遺言とは
遺言とは、一定の方式で示された個人の意思に、この者の死後、それに即した法的効果を与える法技術であるといわれます。
その趣旨は、個人は死後の自分の財産の行方についてもその意思で自由に決することができ、また、一定の事項につき、死後の法律関係が遺言で定められたと通りに実現することを保障するというものです。
遺言の法的性質は、偽造・変造を防止する必要から要式行為とされ、相手方のない単独行為であるとされます。
また、遺言は、遺言者の終意をできるだけ実現する制度であることから、代理などによることは許されず、制限行為能力制度(>詳しくは「後見制度の概要について」をご覧ください。)の適用は廃除され、いつでも撤回ができます。
しかし、何でも遺言で定めるということはできず、遺言事項は法定されています。
遺言によってなしうる行為
民法は遺言によってなしうる行為を法定しており、以下のように、遺言によってのみなしうる行為と遺言でも生前行為によってもなしうる行為が規定されています。
預金を法定相続分と異なる割合で遺したい場合の相続分の指定や、不動産は配偶者に、預金は子になどのように遺産分割方法の指定を内容とする遺言が一般的です。
遺言でも生前行為でもなしうる行為 | 遺言によってのみなしうる行為 |
定款作成(一般法人)、認知、相続人の廃除又はその取消し、信託 | 後見人・後見監督人の指定、相続分の指定・指定の委託、遺産分割方法の指定・指定の委託、遺産分割の禁止、相続人相互の担保責任の指定、遺言執行者の指定・指定の委託、遺留分減殺方法の指定 |
遺言の方式について
遺言は要式行為であることから、定められる方式に従って意思表示を行わなければその効力を生じません。
民法は、遺言者がその状況に応じて利用できるよう、方式を7つ規定していますが、私たちが一般的に利用するのは、普通の方式として規定される①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3方式であろうかと思います。
ほか、特別の方式として、危急時遺言(④死亡の危機の迫った者の遺言、⑤船舶避難者の遺言)と隔絶地遺言(⑥伝染病隔離者の遺言、⑦在船者の遺言)が規定されています。
自筆証書遺言、秘密証書遺言及び公正証書遺言について
前述のように、民法の定める遺言の方式は7つにも及びますが、ここでは我々が通常利用するであろう自筆証書遺言、秘密証書遺言及び公正証書遺言について見ておきましょう。
【自筆証書遺言】
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文を手書きすることによってその意思を残す遺言をいい、遺言の全文、その作成日付、氏名を自書し押印することが要件として法定されています。
押印については実印である必要はありませんが、後日の紛争を防止する観点から、遺言者の住所の記載とあわせて実印を押印し、印鑑登録証明書を同封し保管するのがよいでしょう。
また、財産目録は民法改正により自書する必要がなくなり、パソコン打ちでも可能となりましたが、財産目録の各ページに署名と押印は必要です。
なお、公正証書遺言や秘密証書遺言に必要である証人の立会いは不要であり、封印も要件とはされていません。
保管については、遺言者で保管することが原則ですが、令和2年7月10日から法務局による自筆証書遺言書保管制度が開始され、手数料を支払うと原本は50年間、データは150年間保管してもらうことが可能となり、この保管制度を利用した場合には遺言書の検認が不要とされることとなりました。
【秘密証書遺言】
秘密証書遺言とは、遺言者が遺言に署名・押印をしたうえ、これを封印し、証人2人以上の立会いのもと封書を公証人に提出して確認を受ける方式の遺言をいいます。
自筆証書遺言と異なり、遺言を手書きする必要はなく、署名を除き遺言書全文をパソコン打ちすることも可能です。また、遺言全文を代筆により記載することも可能です。ただし、遺言内容を誰にも知られることなく証人及び公証人に遺言の存在を確認してもらえるという秘密証書遺言のメリットが損なわれます。
保管については、遺言者で保管をする必要があり、自筆証書遺言のように法務局に保管してもらうこともできないため、家庭裁判所での検認が必要となります。
【公正証書遺言】
公正証書遺言とは、遺言者が証人2人以上の立会いのもと、公証人に遺言内容を口述し、公証人がその内容を筆記する方式の遺言をいいます。
保管については、公証役場において遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する取扱いとされています。
証人を確保する必要があること及び作成手数料がかかるということがありますが、遺言内容について法律の専門家の関与があること、保管が公証役場で為されることから検認が不要であることを勘案すると、メリットの大きい方式であるといえます。
検認とは
民法
(遺言書の検認)
第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合 において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第1005条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。 e-Gov
民法第1004条は、遺言書の保管者又は発見した相続人は、遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければならないと規定します。
そして、家庭裁判所において相続人の立会いのもと行われる「検認」とは、相続人により遺言の内容を確認することにより、以降の偽造や変造を防止するための手続きといえます。
なお、検認は遺言の有効無効を確認するものではなく、検認が行われたことによって遺言が有効になるというものではないことに注意が必要です。ですので、仮に封印のある遺言が開封された場合でも、その内容の有効性に影響はなく、1005条による過料の対象になる可能性があるだけということになります。
遺言をするために必要な能力について
ではそもそもどのような人が遺言を残すことができるのか、未成年者が遺言をした場合、民事上の他の行為と同様に法定代理人によって取り消されたりすることがあるのかが気になるところです。
民法は、遺言年齢を15歳と規定します。これは、成年の年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが、成年年齢とは異なる規定であり、未成年者であっても15歳に達すると単独で有効に遺言をすることが可能となります。
また、成年被後見人も事理を弁識する能力を一時的に回復した場合には、医師2人以上の立会いのもと単独で有効に遺言をすることができますし、被保佐人は保佐人の同意なしに遺言をすることができます。
個人の最期の意思を可能な限り尊重する観点から、遺言においては、本人が遺言によって為そうとする内容を弁識できる限り、通常の取引行為とは異なる取扱いが民法においてなされています。
遺言の効力発生時期について
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じます。
こう言うと、何を当然と思われる方も多いかと思いますが、「不動産を長男に取得させる」という内容の遺言を書いてしまうと、すぐにその所有権が長男に移ってしまうのではないだろうかという疑問を持つ方も中にはいらっしゃるので、ここを明確にする必要があります。
また、遺言に停止条件を付けた場合には、その条件が成就した時から遺言はその効力を生じます。具体例としては、「孫が大学に進学したら(条件)、預金を長男に取得させる。」などの場合には、「預金を長男に取得させる」という遺言の効果は、「孫が大学に進学」することを条件にその効力を生じることとなります。
まとめ
以上のように、遺言は遺言者の最終意思を証するものとして厳格な様式性が要求されるとともに、相続人にとっては遺産の承継内容を左右するものであるゆえ、その内容改ざんなどを防止するための措置として、法務局で保管された自筆証書遺言及び公正証書遺言を除き、検認手続きが要求されています。
自筆証書又は秘密証書の方式で遺言書を作成する場合、様式に適合しない場合及び内容が確定できない場合には、最悪の場合遺言が無効となってしまうこともあるため、公正証書遺言を選択する若しくは専門家に相談することをお勧めします。
この記事の執筆者
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行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
Profile
1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。