どのような財産が相続財産で、相続財産ではないどのような財産が相続税の対象となるのか、その具体的な例を挙げながら解説します。

相続財産の範囲については、「被相続人の財産に関する一切の権利と義務は、その一身に専属したものを除き、相続人に相続される」とする民法の原則的考え方について、権利の性質に着目した別稿①>「借家権や保証債務など、相続により承継される権利と義務について、相続財産に含まれるかどうかの観点から高知の行政書士が解説。」、概略を開設した別稿②>「相続とは? 相続制度を高知の行政書士が解説。」で紹介をしていますが、ここでは、その法的な解説を省略しつつ、相続財産とはならない財産を紹介し、相続税の算定基礎となるか否かを解説します。

相続財産とならない被相続人の権利義務については、①その権利の性質上相続財産とはならないもの(一身専属権)、②慣習上、相続財産とは別に承継者に承継されるべきもの、③被相続人の死亡を基礎として発生をするものの、権利を取得する者の固有の財産といえるものに分類することができ、以下その分類ごとに紹介したいと思います。

権利の性質上、相続財産とはならないもの(一身専属権)

詳しくは、別稿>「借家権や保証債務など、相続により承継される権利と義務について、相続財産に含まれるかどうかの観点から高知の行政書士が解説。」で解説していますが、占有権、借家権、不法行為による損害賠償請求権、無権代理人の責任、他人物の売主としての責任、具体的内容と金額が確定した扶養請求権など多くの権利義務が相続の対象となり、扶養請求権のように帰属上の一身専属権として分類される権利も内容と金額、履行期が確定したものは単なる金銭債権として相続の対象とされることから、一般的な財産法上の権利義務は原則として相続財産として扱われるものと理解しておいていただければと思います。

※理論上一身専属権として分類される権利には、帰属上の一身専属権として身元保証人である地位、扶養請求権、生活保護受給権、行使上の一身専属権として精神的苦痛に対する慰謝料請求権、離婚請求権などがありますが、これらが金銭債権と言い得る状態に転化した場合には財産法上の金銭支払請求権と言い得ることから、その相続性についても認められ得る余地が生じてくるものといえます。

慣習上、相続財産とは別に承継されるべきもの

被相続人に帰属した財産のうち、相続財産と切り離して承継する者が定まるべきものとして、家系図や仏壇・仏具、墓といった祭祀財産があげられます。これらは、相続財産と切り離してこれを承継するにふさわしい者が引き継ぐこととなります。承継者は、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所による指定の方法によって決まります。

また、香典は、相続財産ではなく喪主あるいは遺族への贈与とされ、葬式費用についても相続財産への請求は否定されます。

以上の財産については、相続財産でないため、相続放棄をした者も、一般論としては、承継又は取得することが可能となります。

権利者である相続人等の固有の権利とされ、相続財産とならないもの

被相続人の死亡を原因として発生するものの、相続人等の固有財産として扱われるものの代表例としては、死亡保険金、死亡退職金、未支給年金などがあげられます。これら財産(金銭支払請求権)は、相続財産でないため、遺産分割協議の対象ともなりません。

ただし、死亡保険金等が多額であるなど、あまりに相続人間の公平が害される場合には、特別受益の持戻しの規定が類推適用され得るという点には注意が必要です。

相続税の対象財産との関係

相続税課税の計算方法等は別稿(>「相続税はいくらかかる?相続税のしくみを高知の行政書士が解説。」)で触れますが、ここでは上記の3つに分類した権利・財産に加えて、相続税申告において控除が可能な負債についても紹介したいと思います。

相続の承認又は放棄の対象となる相続財産は前述のとおりですが、相続財産と相続税の対象財産の異同を理解するために、まずここで、相続税の申告の基礎となる課税価格をどのように導くかを紹介したいと思います。

課税価格は、「課税価格=相続財産ー(①負債+②非課税財産)+③みなし相続財産」という計算式で表すことができます。

それでは、上記の①②③ごとに解説していきたいと思います。

①負債について

負債については、相続の承認又は放棄を判断する際にその判断の基礎とするいわゆる借金などがこれにあたるといえますが、相続税申告の際に特に注意してもらいたい点が2点あります。

まず1点目は、お墓の購入ローンです。これは、お墓などが②の非課税財産とされるところ、そのローンを財産から負債として控除すると二重の控除となってしまうことから、非課税財産を購入するためのローンは負債としてカウントしない扱いとなります。相続税における課税財産である不動産のローンとは真逆の扱いとなります。

なお、お墓の購入のためのローンは負債には含まないのですが、相当な範囲の葬儀費用は相続税申告において控除することができます。③のみなし相続財産のような、みなし相続負債とでもいうようなものといえます。

2点目は、各相続人の借金の負担割合についてです。相続税の申告においては、プラスの財産を引き継いだ者についてその者が引き継いだ負債をプラスの財産から控除して申告するため、各相続人間で引き継ぐ財産とのバランスを考慮して相続するべきというアドバイスがある場合があります。これが直接的に法的問題を生じるということではありませんが、民法領域においては、相続負債は、相続人間でいかに合意をしようとも、相続債権者に対する関係では、債権者の同意が無い限り法定相続割合により各相続人が負担しなければならないという大原則があります。この原則の理解が欠落すると、相続人間では負債を負担しないこととなっている相続人が相続債権者の請求を無視し、強制執行を受けてしまうということも生じ得るでしょう。強制執行を受け、相続債権者に徴収された金銭の補填は他の相続人がしてくれるかもしれませんが、強制執行を受けた相続人が事業を営んでいる場合などを考えると、差し押さえなどという事態は極力避けたいものです。相続債権者に対しては、相続人間で交わした相続負債の合意を対抗することができないという原則は、押さえておきたいところです。

②非課税財産について

上記でも少し触れましたが、非課税財産とされる被相続人にまつわる財産の筆頭がお墓や仏壇・仏具などの祭祀財産といわれるものです。この祭祀財産は、相続税の算定において非課税財産として扱われるのみでなく、上記でも紹介したとおり、相続の承認又は放棄の対象である相続財産にも含まれません。

なお、国などへに寄付した財産やみなし相続財産とされる生命保険金・死亡退職金のうちの一定額なども非課税財産とされます。

③みなし相続財産

みなし相続財産とは、相続の承認又は放棄の対象とはならず、権利者の固有の財産とされるものの、被相続人の死亡に起因し相続人が受け取る財産であるがゆえに、相続税においてはその課税価格の算定基礎とされるものをいいます。

代表格は生命保険金(死亡保険金)になりますが、「500万円×法定相続人の人数」が非課税財産とされ、これを超える額が相続税の課税価格の基礎とされます。

また、相続税の算定において、みなし相続財産として処理がされるものとして、被相続人が死亡の7年以内にした贈与があります。その都度贈与税を支払っている場合は最終的に税額の控除がありますが、相続時にすべて精算する「相続時精算課税での贈与」については、2024年以降の基礎控除年110万円を除いてみなし相続財産と同様の処理を受けることとなります。

まとめ

最後に、相続税の基礎控除をご紹介します。3000万円+600万円×法定相続人の人数です。

この額を超える相続財産(厳密には相続税の算定基礎となる課税価格)を被相続人が遺した場合には、相続税の申告が必要になることを念頭に、遺産分割協議をすすめることが必要になってきます。

相続の承認又は放棄の判断の基礎となる相続財産を対象とした遺産分割協議と相続税申告のための遺産分けの両にらみで、財産調査を行い、財産目録を作成していくということになりますが、このような場合には特に、民事法分野と相続税分野の双方に明るい専門家に相談されることをお勧めします。なお、税務相談や相続税申告そのものについては、行政書士の資格ではご対応することができませんので、提携する税理士の先生をご紹介いたします。

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この記事の執筆者

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行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也

高知県行政書士会 会員(登録番号 第25381973号)

宅地建物取引士登録番号(高知)第005010号

Profile

 1993年3月

  高知県立追手前高校   卒業

 1993年4月

  立命館大学産業社会学部 入学

イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。