相続登記とは、文字通り不動産の所有者である被相続人が死亡したとき、すなわち、相続が開始したときに、その所有権が何等の行為を要することなく相続人に移転したことを、登記という公的な公示制度上明らかにすることをいいます。
平たく言うと、死んだ人が所有していた不動産について、相続人がこれを相続したことを明らかにするためにする不動産登記なのですが、そこには相続の法的効力や登記制度の法的位置づけなど、様々な法的論点が存在します。
実際の手続きについては、>「相続登記申請手続を高知の行政書士が解説。」をご覧いただき、ここでは、相続登記の法的論点について、主に、相続した不動産の登記をしない場合はどのような法的デメリットが生じ得るのか?という視点から解説したいと思います。

【このページの要点】
- 相続登記は、法律で義務を課されたからという消極的理由のみでなく、相続した財産の活用を安全に図るため、積極的に活用すべき。
- 相続登記は3年以内に申請しなければ、10万円の過料が課される場合がある。
- 相続登記をしなければ、自己の相続した不動産の所有権を第三者に対抗できない場合がある。
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相続登記の法的性質について
相続登記を論ずるうえでは、そもそも、登記制度は何のために存在し、どういった機能を有しているのかという点を押さえる必要があります。
結論からいうと、登記は所有権等の物権の取得を第三者に公示するための制度です。この公示を備えることにより、その物について他に所有権等を主張する者が現れたとしても、公示を備えた者の所有権等が法的に有効であるという判断を与えられることとなります。
そして、この制度を理解するには、そもそも所有権などの物権といわれる権利はどのようにして移転するのかという点から押さえていく必要があります。
以下、順を追って、所有権など物権の移転、その移転の公示についての効果といった論点をみていきましょう。
物権の設定及び移転の時期と要件について
物権の「設定」と聞くと、所有権などの物的な権利を新たに作り出すことができるの?と疑問に思われるかもしれませんが、抵当権などの物権に属する権利を考えていただくと分かりやすいかと思います。
銀行から融資を受ける際、不動産に抵当権が設定されますが、これは貸金が返済されないときのために、不動産を担保として抵当権という担保物権を新たに「設定」するものです。
そして、物権の設定や移転といった権利の変動は、民法上「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」(民法第176条 >e-Gov 法令検索)と規定され、例えば、売買の場合、売買契約の成立時にその対象物の所有権は買主に移転することとなります。
この規定が何を意味するかというと、代金の支払いがまだ為されていなくても、契約成立と同時に所有権だけは買主に移転してしまうという法律上の効果が規定されているということです。
もちろん、契約締結時に代金を支払うという慣例があったり、契約に特約条項を設けて後日代金が支払われたときに所有権が移転するという合意も排除されるものではありませんが、所有権の移転時期やその条件について特に定めなかった場合には、売買契約締結と同時にその物の所有権は買主に移転するのが原則です。
とは言え、売主にとっては、代金の支払もしてもらってないのに物の所有権が買主に移転してしまっては、代金が支払われるかどうか不安であり、契約時に代金を支払うこととするというのが取引の通例となっています。また、契約時に代金を支払うこととした場合、買主としては、その物の引渡しを受けておきたいと思うのが普通ですので、持ち運べる動産などは契約締結時に代金支払いと同時に買主に引き渡すということも取引の通例といえるでしょう。
しかし、これが不動産特に山林などの場合、引渡しを受けるといっても、居宅なら住んで買主が実効支配することも可能ですが、買い取ったものの、売主が第三者に重ねて売却する可能性もあり、代金を支払う以上買主としては何らかの担保がほしいところです。
所有権の所在を公示する不動産の登記制度や自動車の登録制度などは、こうした取引社会の要請から誕生した制度であるといえるでしょう。
不動産登記に認められる「対抗力」とは
上で述べたように、登記制度は、取引社会の安全の要請から認められた公示制度の一つです。
法律上公示制度と位置づけられるものには、自動車の登録制度、動産などに関する明認方法などがあり、また、その他にも民間企業が行う株主名簿制度など一定の制度効果を伴うものも存在します。
これら公示制度等のなかで、不動産の物権変動を公示するのが不動産登記制度です。民法ではこの不動産登記制度について、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」(第177条)と定められ、不動産に関する物権変動については登記が対抗要件であることが示されています。
ここで肝要となる「対抗することができない。」とは、たとえ適法に権利を取得し又は権利に変更を加えた権利者であっても、登記がないと当事者以外の第三者に対しては自分が権利者であることを主張できないことを意味します。
登記が対抗要件とされる権利には、不動産に関する所有権、抵当権、質権などの物権のほか、不動産賃借権や不動産買戻権といった権利も含まれますが、所有権に関して例を挙げると、不動産が二重に売買された場合、2人の買主のうち所有権の取得を主張できるのは、先に不動産登記を備えた方ということになります。
なお、実務の現場において、不動産売買契約と同時に代金を支払い、同席した司法書士に買主・売主双方から必要書類を託し、即刻司法書士がこれらの書類を携え法務局に走るのは、このような二重売買が起きないようにするためです。
相続登記の本質
このように、不動産登記の本質は対抗力であることがお分かりいただけたかと思いますが、相続登記にこれがすべて当てはまるかというと、そうではありません。
これをお話しすると元も子もないようなことになってしまうのですが、そもそも法定相続割合のとおり相続した不動産の所有権を相続人が第三者に主張するには登記を要さないというのが判例の立場なのです。
法定相続割合を超えて相続した部分や遺贈によって相続人でない者が所有者となった不動産については登記が対抗要件となるのですが、従来不動産の権利に関する登記は義務ではなく権利であって、遺産分割をすることなく法定相続割合通りに相続された不動産は相続登記をすることなく何年たったとしても、第三者に対抗もできるし、登記の義務もないという状況が続いてきました。
しかし、このような状況が継続するなか、相続人が多数にのぼるいわゆる所有者不明土地が社会問題ともなったことから、不動産登記法が改正され、相続登記が義務化されるに至ったというのが実状です。
とはいえ、相続登記はこのような消極的な理由からのみ推奨されるものではないと私は考えています。
相続財産、特に相続不動産は、遺産分割をすることなく相続人の共有物として相続するのではなく、それぞれの相続の事情のもと、適切に管理又は活用し得る相続人が承継するのが本来の姿だといえるでしょう。
そうであれば、やはり相続登記にも、不動産登記の本来の効力としての対抗力を有するが故の存在意義を求め得ると言えるのではないでしょうか。
相続登記の義務化
ここで、相続登記の義務化について、少し説明をしておきたいと思います。
上でも所有者不明土地に関する記述で、相続登記が行われないままの不動産が多数あった我が国の状況に触れましたが、そもそも、以前は相続登記は義務ではありませんでした。
不動産に関する登記制度は、不動産の物理的形状を記録する表題登記と権利状況を記録する権利の登記に分かれていますが、従前は、固定資産税などの課税を促進するために表題登記には登記義務が課されていたものの、権利の登記については、対抗力を欲する所有者等の権利であると位置づけられることから登記は義務ではありませんでした。
しかし、この権利の登記、特に相続登記が長年多くの不動産において為されてない状況は、不動産取引の停滞等という社会問題も招来するに至り、民法改正を経て、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
【相続登記の義務化の概要】
- 義務を負う者
不動産を、相続又は遺贈(相続人のみ)により承継した相続人が相続登記の義務を負う。 - 3年以内に相続登記すること
相続の開始があったこと及び相続によって不動産の所有権を取得したことを知ったときから、3年以内に相続登記をすること。(簡易な相続人申告制度を利用することで相続登記の義務を履行したものとみなされる。) - 義務違反には、10万円以下の過料
正当な理由なく相続登記の義務を怠った場合、10万円以下の過料が課されることがある。
相続登記の義務化について、詳しくは、>「相続登記の義務化とは?/義務の内容・罰則・義務化の背景を高知の行政書士が解説。」をご覧ください。
不動産登記法(抜粋)
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第76条の2 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。2 以下省略
(相続人である旨の申出等)
第76条の3 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
3 以下省略
相続方法決定の4つの類型における相続登記の役割
相続財産に不動産が含まれる場合、相続人は、何らの行為を要することなく、相続開始によりその不動産を承継することとなりますが、相続人のうちの誰がどのように相続財産に属する不動産を承継するかの決定方法については、4つの類型があります。
具体的には、①遺言で相続(遺産分割)の方法が指定された場合、②遺言によって相続人でない第三者に対する遺贈が為された場合、③遺言もなく、遺産分割もしない場合、③遺産分割協議によって遺産を分割する場合に分類できるのですが、ここでは、上の「相続登記の法的性質について」で述べた対抗力と義務という2つの視点から相続登記の役割を各類型ごとにみていきたいと思います。
①遺言によって「遺産分割の方法の指定」が為された場合
遺産分割方法の指定というと少しイメージし難いかと思いますので、「甲不動産は長男Aに相続させる。」旨の遺言があった場合と考えてください。
まず、この場合に、相続登記が第三者対抗要件として機能する場面があるのかということからお話をすると、改正民法が施行される2019年6月までは、最高裁判例により、遺言による相続は法定相続割合を超える部分についても登記無くして第三者に対抗できるとされてきましたが、2019年7月1日施行改正民法第899条の2第1項の規定により、法定相続割合を超える部分については登記をしなければ第三者に対抗できないということとなりました。
民法(抜粋)
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。2 以下省略
例えば、「甲不動産は長男Aに相続させる。」という遺言があった場合に、相続人には長男Aと次男Bがおり、仮に次男Bが第三者Cに甲不動産の持ち分1/2を売却してしまったという事案においては、Aは相続登記を備えなければCに対して甲不動産の所有権を対抗することができないということとなります。
よって、遺言によって法定相続割合と異なる遺産の分割方法の指定がされた場合、相続登記が第三者対抗要件として機能することとなります。
また、もちろん相続人の義務としても相続登記が課されます。
なお、相続人が遺贈により不動産を取得した場合、以前は遺贈をした故人の他の相続人又は遺言執行者と遺贈を受けた相続人である受遺者が共同して遺贈による所有権移転登記を申請する必要がありましたが、不動産登記法改正により、令和5年4月1日以降、受遺者が単独で登記申請を行えることとなりました。
不動産登記法(抜粋)
(判決による登記等)
第六十三条 省略
2 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
3 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
②遺言によって相続人でない者に対する「遺贈」が為された場合
こちらは、相続登記の義務が課されることはありませんが、第三者対抗要件として遺贈による所有権移転登記をしっかりと行うべきです。
なお、相続人でない受遺者の遺贈による所有権移転登記は、従来通り、遺贈をした故人の他の相続人全員又は遺言執行者と遺贈を受けた相続人である受遺者が、共同して遺贈による所有権移転登記を申請する必要があります。
②遺言がなく、遺産分割もしない場合
遺言が無く、遺産分割もしない場合、相続不動産は法定相続割合をもって相続人に相続されることとなります。この場合に、相続人が複数いるときは相続不動産は複数の相続人の共有となります。
相続登記の対抗力の視点からいうと、法定相続割合をもって相続した不動産については、相続人は登記無くしてその所有権を第三者に対抗することができることから、一部の相続人が第三者に対して相続不動産の全部を売却した場合でも、その他の相続人は自己の持ち分を第三者に対抗することができます。
このような法的効果が生じることから、遺言もなく、遺産分割もしない相続不動産については相続登記もされることなく何代にもわたって放置されるという状況が多数みられ、所有者不明土地の原因ともなってきました。
ゆえに、不動産登記法改正による相続登記の義務化という政策決定も行われたわけで、現在においては、このような類型の相続について相続登記の義務が課されています。
③遺産分割をする場合
遺産分割をして相続人のいずれかが法定相続割合を超えて相続不動産を相続した場合、民法第899条の2第1項の規定により、その法定相続割合を超える部分については、相続登記なくして第三者に相続による所有権の取得を対抗できません。
また、相続登記の義務も不動産登記法により課されることから、遺産分割協議後速やかに相続登記を申請すべき類型といえます。
まとめ
以上みてきた通り、相続登記には、第三者対抗力という登記本来の効力についての意義と、増加する所有者不明土地の発生抑制の観点から行われた義務化に関する側面があります。
また、第三者対抗要件を備えるための登記一般からいうと、相続登記については法定相続割合によって相続した部分については登記不要で第三者に対抗できる点が特殊といえるものです。
いずれの側面を見るにしても、相続が開始した場合は、遺された不動産をどう相続するか適切に判断して合意することが相続人にとって大変重要です。せっかく故人が遺してくれた財産を空き家にして、又は、耕作放棄地とするようなことができるだけ無いよう、管理するにふさわしい相続人が相続し、又は、そのような相続人がいない場合は売却や賃貸などの検討をしっかりと相続人全員で行うことが重要です。
当事務所では、相続人の方々がしっかりと遺産相続の協議が行えるよう、遺産分割に関して法律の規定を基本とした論理的なサポートを提供いたします。
また、相続登記の申請についても、提携の司法書士事務所にワンストップで委託が可能ですので、手続きや相続人間での協議に疑問や不安があられる場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
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弊所は、高知県高知市中心部にて相続、遺言、後見といった家族法関係の専門事務所として、主に個人のお客様からのご相談に対応させていただいております。
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代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
宅地建物取引士登録番号(高知)第005010号
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1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。
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