亡くなった人が掛けていた生命保険の死亡保険金を相続人が受け取った場合、相続税がかかるのか気になる方は多いと思います。
結論からいうと、生命保険の死亡保険金も相続税の対象となりますが、相続税がかかるか、かからないかは、その他の相続財産の多寡によって、また、相続人の人数やその構成によって決まります。
ここでは、相続税の算定における生命保険の位置づけを詳しく解説し、読者の皆さんの場合に相続税がいくらかかるのかを明らかにします。
【相続の例】
- 相続人:妻・長男・次男
- 相続財産:自宅・自宅敷地、預金
自宅・自宅敷地:1億円
預金:1億5,000万円 - 生命保険の死亡保険金
受取人:妻
死亡保険金額:6,500万円

【このページの要点】
- 相続税の対象となる財産の額が、基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)以下であれば、相続税はかからない。
- 相続税の対象となる財産の額(「課税価格」)には、故人の生命保険金も原則として含まれる。
- 「課税価格」-「基礎控除額」がプラスであっても、相続税を納めなくてよい場合がある。
- 故人の生命保険金であっても、相続税でなく、贈与税や所得税の対象となる場合がある。
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生命保険は「みなし相続財産」として相続税の対象
要点で「故人の生命保険金であっても、相続税でなく、贈与税や所得税の対象となることがある。」ことに触れましたが、この点については、末尾でご紹介することとして、ここからは主に、最も多く利用されているであろう生命保険のかけ方として、高齢の親が自身の葬儀費用に充てるために保険料を負担し、子を受取人としている場合について、相続税がかかるのかという点を解説していきたいと思います。
相続税の対象は、「相続財産」と「みなし相続財産」
生命保険の死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税の対象となりますが、この「みなし相続財産」とはどういうものか、という点について説明が必要でしょう。
相続財産とは
まず、被相続人が死亡すると、被相続人の一身に専属した権利義務を除き、すべての権利義務は相続人に相続されるというのが民法の規定です。
民法(抜粋)
(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(祭祀に関する権利の承継)
第897条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
このように民法は、「一身に専属した権利義務」と「祭祀財産」を除き、一切の権利義務が相続されると規定し、これが法律上の「相続財産」といわれるものとなります。
「相続財産」の例を挙げると、土地・建物などの不動産、預金、現金、自動車、貴金属などのプラスの財産もありますし、借金、住宅ローンなどの負債や売買契約に基づく債務などの義務も含めたマイナスの財産があります。
被相続人に多額の借金がある場合に、相続人がこれを免れる方法として「相続の放棄」が選択肢に挙がりますが、プラスの財産もマイナスの財産も、すべてを相続するという「相続の承認」とすべて相続しないという「相続の放棄」の対象となるのがこの「相続財産」です。
よって、民法上の「相続財産」に含まれない「祭祀財産」や次項で紹介する「みなし相続財産」は、「相続の放棄」をした相続人も受け取れる財産ということになります。
みなし相続財産とは
上で紹介したように、「相続の放棄」をした相続人も受け取れる「みなし相続財産」ですが、なぜ相続財産でないのか?、なぜ相続財産でないのに相続税がかかるのか?ということを疑問に思われるのではないかと思います。
「みなし相続財産」の代表格である生命保険の死亡保険金ですが、これは、被相続人が生前に、死亡保険金の受取人を相続人として生命保険会社と契約し、被相続人が死亡すると、死亡保険金の受取人である相続人に死亡保険金が支払われます。
上で見た相続に関する民法の規定を思い出していただきたいです。「相続人は、・・・被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」。これが相続であり、相続によって相続人が承継するのは「相続財産」です。
民法では、この考え方を厳格に貫きます。生命保険の死亡保険金を受け取る権利については、被相続人に一度も属してないということを着目するわけです。もちろん、被相続人が死亡するまでの間は受取人である相続人も確定的な権利を有しているとはいえませんが、法律的には条件付きの権利を相続人が持っているということができます。そして、被相続人には、死亡するまでの間、一度もこの死亡保険金を受け取る権利が帰属することはないため、生命保険の死亡保険金受取権については「被相続人の財産に属した一切の権利義務」でないため、民法上は、相続財産ではなく、受取人である相続人の固有の権利であると位置づけられることとなります。
結論の妥当性を重視する民法においては、少々理論を重視した結論ということになりますが、生命保険の死亡保険金については、社会一般の感覚に基づいた妥当な結論に近づくため相続税法が修正を加えることとなります。
それが、「みなし相続財産」という制度です。
大きな財産を遺した方に相続税を負担してもらい、社会経済の需要に充てるという税の公平性の観点からいうと、生命保険の死亡保険金は、民法理論上相続財産でないにしても、例えば、1億円の預金がある人がすべての預金を生命保険の掛け金として相続人に1億円を遺したが、これに相続税が一切かからないというようなことは税政策上好ましくないものです。
ですので、税負担の公平性を保つため、このような場合にも相続税を負担してもらうための「みなし相続財産」の規定が相続税法には存在しています。
代表的な「みなし相続財産」には、以下のようなものがあります。
- 生命保険の死亡保険金
被相続人が被保険者となっている生命保険のうち、被相続人が保険料を負担した生命保険の死亡保険金については、受取人が相続人以外の者であった場合も、「みなし相続財産」として相続税の対象となります。
なお、受取人が相続人である場合のみ、法定相続人数※1×500万円の非課税枠が適用されます。死亡保険金額-非課税枠が0又はマイナスとなる場合、生命保険に相続税が課されることはありませんが、これがプラスとなる場合、プラスとなった額は後述する「課税価格」に算入され相続税の算定基礎とされることとなります。 - 死亡退職金
退職金を受け取るばずの者がそれを受け取る前に死亡した場合、務めていた雇用主からは退職金が支払われるのが通常です。この退職金は、雇用主から相続人またはその他の者に支払われ、これに対して相続税が課税されることとなります。
法定相続人数※1×500万円の非課税枠が適用されます。 - 相続開始前7年以内の贈与
被相続人が相続財産を承継する者に対して相続開始前7年以内にした贈与に、相続税が課税されます。ただし、贈与のときに納付した贈与税の額は控除されます。
2024年1月1日以降、これまで3年であった相続開始前の贈与に関する期間が、税法改正により7年とされました。
※1「法定相続人数」については、相続放棄をした者があっても、その者を加えて相続人の数を算定しますが、相続人のなかに養子が含まれる場合、その算定数に制限が加えられます。被相続人に実子がいる場合養子は1人まで、実子がいない場合養子は2人までを算定数に加えることができます。

相続税の全体額の計算
ここまでで、生命保険の死亡保険金が相続税の対象となることは理解していただいたかと思いますが、「では、実際いくらかかるの?」ということが皆さんの一番の関心事かと思います。
しかし、相続税がいくらかかるのかという点については、①相続財産・みなし相続財産がいくらで、②相続人が何人なので基礎控除がいくらで、③最終の課税額はどのように相続するのかによって相続人ごとに求められるということを知っていただかなければいけませんので、今しばらくお付き合いください。
【基礎控除】
相続税の基礎控除とは、相続人の人数によって自動的に定まるもので、相続税の算定において相続財産とみなし相続財産の合計額(「課税価格」といいます。)から控除できるものです。
「基礎控除額」は、以下の計算式によって求められ、「課税価格」よりも大きい場合、相続税はかからないこととなります。
- 基礎控除額:3,000万円+(600万円×法定相続人の数※1)
※1 被相続人に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合は2人までとなります。
【課税遺産総額】
「課税遺産総額」とは、上記の課税価格から基礎控除額を差し引いて求められ、相続税率を乗じる対象となる財産の価額をいいます。
相続財産の課税価格が3億円、配偶者、長男、次男が法定相続人である場合、3億円-4800万円=2億5200万円が「課税遺産総額」となります。
相続税の総額
相続税の税率については、課税遺産総額に法定相続割合を乗じて算出した金額によって定められています。
なお、課税遺産総額×法定相続割合×税率-控除額によって一旦算出する相続税額(法定相続割合での額)を求めます。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記の例で2億5,200万円とされる課税遺産総額を法定相続割合で各相続人に割り付けると、妻が1億2,600万円、長男・次男が6,300万円ずつとなります。
これらの法定相続分に応ずる取得金額を上記の表に当てはめると、算出税額は次のとおり計算されます。
| 法定相続分に応ずる取得金額(妻) 1億2,600万円 | × | 40% | - | 1,700万円 | = | 3,340万円 |
| 法定相続分に応ずる取得金額(長男) 6,300万円 | × | 30% | - | 700万円 | = | 1,190万円 |
| 法定相続分に応ずる取得金額(次男) 6,300万円 | × | 30% | - | 700万円 | = | 1,190万円 |
算出された税額を合計すると相続税の総額は5,720万円になります。
ただし、これが最終的な相続税の負担となるわけではなく、各相続人の負担する相続税額については、ここからさらに実際の相続割合により算出されることになります。

相続税の個別負担額の算出方法
それでは、上記で確認した5720万円の相続税がどのように相続人に割り付けられ、そして負担するのかをみていきましょう。
配偶者、長男、次男の法定相続割合は1/2、1/4、1/4ですが、法定相続割合と異なる割合で相続した場合を例に、以下相続税の算出方法を解説します。
冒頭でお示しした例では、財産の内訳は、以下のとおりでしたが、この場合に、妻が死亡保険金6,500万円(課税価格は5,000万円)と自宅・自宅敷地1億円相当と預金3,000万円を相続し、長男が預金6,000万円、次男が預金6,000万円を相続する場合のそれぞれの相続税の負担額を見ていきたいと思います。
- 相続人:妻・長男・次男
- 相続財産:自宅・自宅敷地、預金
自宅・自宅敷地:1億円
預金:1億5,000万円 - 生命保険の死亡保険金
受取人:妻
死亡保険金額:6,500万円
まず、配偶者:長男:次男の相続割合は、課税相続財産に対し60%:20%:20%となります。
これを相続税の総額に乗じて相続人ごとの個別相続税額を算出することとなり、配偶者5720万円×0.6=3,432万円、長男5720万円×0.2=1,144万円、次男5720万円×0.2=1,144万円となります。
そしてさらに、この相続税額から、各種税額控除を控除した金額が最終的に各自が納めるべき相続税の額となります。控除には、贈与税額控除、配偶者控除等があり、ここでは、配偶者控除だけが適用されるとして事例をみてみましょう。
まず、控除のない長男、次男はそれぞれ上記の相続税額を負担すべきことが確定します。そして、配偶者については、配偶者控除が適用され、結論から申し上げると、相続税額1億6000万円までは控除により相続税の負担はかからないこととなります。また、1億6000万円を超える相続税額が算出される場合であっても、法定言相続割合である1/2までの相続にかかる相続税については控除されることとなります。

まとめ
以上、生命保険の死亡保険金に相続税はいくらかかるのかという視点で、相続税の概要をみてきました。
遺された配偶者の生活保障から、その相続税負担は政策的に軽減されているといえますが、2次相続つまり配偶者を相続した配偶者が死亡した際には配偶者控除の適用を受ける法定相続人がいないという場合が大半ですので、相続の際には、先を見据えた相続対策も重要です。
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この記事の執筆者
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弊所は、高知県高知市中心部にて相続、遺言、後見といった家族法関係の専門事務所として、主に個人のお客様からのご相談に対応させていただいております。
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弊所の「ライフパートナー」という名称には、報酬の対価としての単なるサービスの供給や恩恵的なサービス提供ではなく、敬意をもってサポートを提供することによって、私たちを人生のパートナーとして感じていただければという一方的な願望を込めております。
行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
宅地建物取引士登録番号(高知)第005010号
Profile
1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。
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