
銀行に預金口座をもっている方が亡くなると、その預金は相続財産として相続の対象となります。
ここでは、銀行での預金口座の相続手続きについて、その流れや必要書類のほか、引継ぎ方法について解説します。


【このページの要点】
- 銀行が死亡を知ると、預金口座は凍結される。
- 原則、預金は遺産分割協議をしなければ相続することはできないが、遺産分割協議前でも一部の引き出しはできる。
- 預金の引継方法には、口座名義を相続人名義に変更する方法と解約する方法がある。
- 放置すると「休眠預金」とされるリスクも。
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- 1. 銀行が死亡を知ると預金口座は凍結される
- 1.1. 預金口座が凍結されるとどうなる?
- 1.2. 銀行はどうやって死亡を知る?
- 2. 遺産分割協議をしなければ預金は引き出せない?
- 2.1. 遺産分割協議の前に預金を引き出すことはできない?
- 2.2. 法改正によって引き出せるようになった金額は?
- 3. 銀行預金の相続手続き
- 3.1. 銀行預金の相続手続きに必要な書類
- 3.1.1. 戸籍謄本
- 3.1.2. 相続人全員の印鑑証明書
- 3.1.3. 遺産分割協議書
- 3.1.4. 銀行独自の相続専用書類
- 3.1.5. 遺言書
- 3.2. 銀行預金をどのように遺産分割するのか?
- 3.3. 銀行預金の遺産分割にあたっては残高証明書を取得する
- 4. 銀行預金の相続手続の期限は?
- 4.1. 銀行預金の相続手続に期限はある?
- 4.1.1. 「休眠預金」とされてしまう
- 4.1.2. 「時効」がきてしまう
- 5. まとめ
- 6. 対応地域
銀行が死亡を知ると預金口座は凍結される
銀行に預金口座を持っている方が亡くなったことを銀行が知ると、その方のすべての預金口座は凍結され、入金や出金が一切できなくなります。
預金口座が凍結されるとどうなる?
預金口座が凍結されると、銀行窓口での引き出しができなくなるだけでなく、ATMからの引き出し、口座への入金、口座引き落としなどすべての取引ができなくなります。
銀行はどうやって死亡を知る?
では、どうやって銀行は死亡を知るのかということになりますが、多くの場合は遺族が銀行に連絡することによって知ることになります。
その他、たまたま銀行員が死亡広告を見つけたり、葬儀を見かけたりということもあろうかと思いますが、役所に死亡届を提出するとその情報が銀行に伝わるというようなことはありません。
また、A銀行が死亡を知ってA銀行のすべての支店の口座を凍結したとしても、これによりB銀行の口座が凍結されることもありません。
遺産分割協議をしなければ預金は引き出せない?
被相続人の財産で、相続の対象となる財産を相続財産といい、預金口座のお金も相続人が相続することができる相続財産です。
相続財産のうち、貸付金や借入金といった金銭の支払いを請求する債権は、遺産分割協議の対象となることはなく、被相続人の死亡と同時に法定相続割合で相続人が取得することとなりますが、預金、厳密には預金の払戻し請求権は、現金などと同様に、遺産分割協議が必要な相続財産であるとの最高裁判決(平成28年12月19日)が為されて以降、銀行に対して預金口座の解約や相続人名義への名義変更を請求するためには、相続人全員の協議を経ることが必要であり、遺産分割協議前には預金の払戻しなどを行えないという状況が続いていました。
なお、預金口座が凍結される前、すなわち、被相続人の死亡を銀行に伝えることなく預金を引き出すことは可能ですが、後々、他の相続人との間でトラブルを生じやすい行為ですので、極力行わないことをお勧めします。どうしてもこれが必要な場合、相続放棄ができなくなることを承知の上で、引き出した金銭の使い道(例えば、葬儀費用、故人の入院費用など)をしっかりと記録し、領収証等を保管しておきましょう。
遺産分割協議の前に預金を引き出すことはできない?
このように、遺産分割協議の完了前には被相続人の預金を引き出せないのが原則でしたが、被相続人の葬儀費用を支払えない、被相続人の財産で生活していた相続人が生活費に窮するなどの場合、遺産分割協議の完了を待っていては相続人の生活に支障が出るというような問題が、これまで多く発生していました。
こういった背景もあり、それまでは遺産分割協議の完了前の段階では一切預金を引き出すことができなかった法規定の改正が行われ、令和元年7月1日以降、遺産分割前であっても、相続人が被相続人の預金口座から一定額の払戻しが受けられるようになりました。
民法(抜粋)
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
法改正によって引き出せるようになった金額は?
民法909条の2に規定されるように、預金残高の1/3に払戻しを請求する相続人の法定相続割合を乗じて得た額の払戻しが遺産分割協議前でも可能になりました。
例)預金1,500万円、相続人:配偶者、長男、長女の場合に長男が請求する場合
払戻可能額:1,500万円×1/3×1/4=125万円
ただし、同一の金融機関からの払戻しは、150万円が上限になります。(平成30年法務省令第29号)
銀行預金の相続手続き
では、ここから、銀行での預金口座の手続きについて解説していきたいと思います。
手続きには各種書類が必要となり、この書類の作成・収集こそが銀行での相続手続きの大半を占めます。
銀行預金の相続手続きに必要な書類
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本等
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
- 銀行独自の相続専用書類
- 遺言書
- 被相続人名義の通帳やキャッシュカード
1と2の書類は、誰が相続人かを特定し、その相続人本人が預金の分割に同意していることを確認するために必ず必要となります。
3、4、5については、原則として択一的に必要となります。
戸籍謄本
銀行に対し、誰が相続人であるかを明らかにするために、①故人の出生から死亡までの戸籍謄本と、②相続人全員の戸籍謄本が必要になります。
また、印鑑証明書には住所が記載されており、ここに記載された住所と相続人の住所が一致することを示す必要もあるため、③相続人全員の戸籍附票又は本籍地の記載のある住民票も必要となります。
この戸籍収集だけでも大変な場合もあり、専門家の支援を受けることも選択肢の一つといえます。
当事務所では、預金の相続だけでなく相続登記や各種財産の承継も含めて、ご遺族が窓口に足を運ぶことなく相続手続をお任せいただける>「相続手続まるごとサポート」をご用意しております。
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相続人全員の印鑑証明書
手続きを行う者が、本当に戸籍に載っている相続人本人であるかを銀行が確認するために必要となります。作成期限については、銀行ごとに要求する内容が異なるので、個別に確認が必要です。
印鑑証明書発行後6か月以内というような具合です。
遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、相続財産をどのように分けるかを相続人全員で話し合い、その結果をまとめた書類をいいます。
詳しくは、>「遺産分割協議書のつくり方 - 記載すべき事項・日付・印鑑の種類まで高知の行政書士が解説。」をご覧いただきたいですが、遺産分割協議書には相続人全員が署名し、実印を押印します。
なお、この遺産分割協議書に被相続人の預金の分け方が示されていれば、法的には通用するものといえますが、預金口座を解約して誰の口座に振り込むのか、若しくは、預金口座の名義を相続人に変更して引き継ぐのかといった銀行の実務上の事情もありますので、そのあたりを記載する必要がある銀行独自の相続専用書類も併せて提出するようにしましょう。
銀行独自の相続専用書類
銀行にはそれぞれ独自の相続専用の申請様式が準備されています。
これらの書類の内容は、被相続人の口座情報の記載、相続人全員の署名・実印での押印が必要とされ、預金を解約するのか、特定の相続人に名義変更して引き継ぐのかを記載することとなっています。
不動産や自動車といった預金以外の相続財産について遺産分割協議が終わっていない段階でも、銀行独自の相続専用書類を作成することによって預金の遺産分割は成立しますので、まずは預金について、続いて不動産についての遺産分割を順次行っていくという方法も多く拝見します。
遺言書
遺言書がある場合、これと異なる遺産分割を行うことも可能ですが、大半の場合は遺言通りに遺産を相続することとなります。
ですので、遺言書がある場合は、これを銀行に提出することによって、銀行としては誰が預金を相続するのかを確認できますが、やはりどのように引き継ぐのかを明確に示すために、銀行独自の相続専用書類を提出する必要がある金融機関もありますので、その際には、銀行の指示に従って書類を作成します。また、遺言書がある場合の印鑑証明書については、預金を相続する相続人のものだけでかまわないとされる場合が大半です。
なお、遺言書が自筆証書遺言であって、法務局保管でない場合は、家庭裁判所で遺言の検認を受ける必要がありますので、注意が必要です。
自筆証書遺言と公正証書遺言について
遺言は、その方式が法律によって定められており、法律上の方式に適合しないものは遺言として無効になります。
遺言の方式には、通常時遺言と危急時遺言がありますが、大半は通常時遺言であり、これには自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
このうち大半は、自筆証書遺言と公正証書遺言であり、ここでは、この2つの方式について紹介しておきたいと思います。
- 自筆証書遺言
遺言の全文、日付、氏名を自筆し、押印することが要件とされる遺言です。自宅で、封筒に入れて保管されていることが多く、これを発見した場合は、封を開けずに、まず、家庭裁判所で「検認」をしてもらうことが必要です。
「検認」は相続人全員に遺言の存在を知らしめるという効果を伴うものですが、遺言の内容が法的に有効であるかどうかを確認するものではないことに注意が必要です。
銀行での相続手続きや相続登記の申請の際には、「検認」が済んだ遺言書を提出することが求められますので、故人宅で遺言書を発見した場合は必ず家庭裁判所に「検認」を申し立ててください。
なお、個人宅で発見した遺言書の入った封筒を誤って開けてしまった場合、民法1005条には「家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。」と規定されており、5万円以下の過料に処せられる場合がありますが、開披しただけで遺言が無効になることはありませんので、誤解のないよう願います。 - 法務局で保管されていた自筆証書遺言
自筆証書遺言について、法務局が保管してくれるという自筆証書遺言保管制度が令和2年7月10日にスタートしました。
この制度を利用した場合、自筆証書遺言に要求される「検認」手続きが不要となり、銀行での相続手続きや相続登記に法務局から交付を受けることができる「遺言書情報証明書」を使用することができます。
なお、「遺言書情報証明書」とは、遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(又は国籍等)に加え、目録を含む遺言書の画像情報が表示されるものであり、遺言書の内容の証明書となるものです。この証明書を取得することにより、従前は、遺言書の原本を使用して行っていた手続について、その代わりに添付して使えることが想定されています。 - 公正証書遺言
公証役場で公証人によって作成される遺言書を公正証書遺言といいます。
公正証書遺言は、「検認」不要で相続手続きに使用することができます。
なお、遺言書の原本は、実務上、公証役場で遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存することとされています。
銀行預金をどのように遺産分割するのか?
実務上、銀行預金の引継ぎ方法については、①被相続人名義の口座の名義を相続人の1人の名義に変更する方法と、②被相続人名義の預金を相続人のうち1人の口座に移し替える方法があります。
さらに、②の方法については、②-1被相続人の預金の振込等を受ける相続人が1人でこれを相続する場合と、②-2振込等を一旦受け入れた代表相続人の口座から各相続人に分配する場合があります。
一つの金融機関の預金を相続人の誰か1人が相続するという遺産分割協議が成立した場合は、①又は②-1の方法をとることとなりますが、例えば、預金を複数の相続人が平等に分け合うという遺産分割協議が成立した場合、②-2の方法により、一旦代表相続人の口座に被相続人の預金全額を受け入れておき、葬儀費用や各種必要費を差し引いた残額を平等に分け合って相続するという方法で遺産を承継することができます。
なお、代表相続人の口座が被相続人の口座があった銀行とは別の銀行にある場合、ここに預金を振り込む際には振込手数料が差し引かれることが通例です。
銀行預金の遺産分割にあたっては残高証明書を取得する
少し細かい知識になりますが、遺産分割の効果は相続開始時点に遡ることから、預金は被相続人が死亡した時点で相続人に相続されることとなります。つまり、遺産分割協議を行う際は、相続開始時点での預金残高がいくらであったかを基礎として協議を行うこととなりますので、銀行から被相続人死亡日時点での預金残高証明を取得するようにしましょう。
銀行預金の相続手続の期限は?
銀行預金の相続手続については、相続開始後できるだけ早い時期に行われることをお勧めしますが、戸籍の収集や遺産分割協議が長引いたりして遅れてしまっているという方もいらっしゃるかと思います。
ここでは、銀行預金の相続手続に期限があるのか、また、放置した場合にどのようなリスクがあるのかについてご紹介したいと思います。
銀行預金の相続手続に期限はある?
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内、また、相続登記については3年以内というように期限が定められ、期限を過ぎると、相続税の場合は延滞税が、相続登記の場合は過料が科されることとなりますが、銀行預金の相続手続については、特にこのような何か月以内にというような規定は存在しません。
ですので、銀行預金の相続手続が遅れても、行政から罰則を受けることはありません。
ただし、以下のようなリスクもありますので、やはり漫然と放置するようなことはお勧めできません。
「休眠預金」とされてしまう
これは故人名義の預金口座に限ったことではないのですが、10年間何の取引もない口座については、「休眠預金」とされてしまう可能性があります。
「休眠預金」とされたとしても、これがすぐに国や銀行のものとなってしまう訳ではなく、引き出し等も可能ですが、手続きに時間を要したりという手間が生じますので、銀行預金の相続手続はできるだけ早めに取り掛かられることをお勧めします。
「時効」がきてしまう
銀行預金は、銀行がお金を預かり、預けた人がこの預り金の支払いを請求すると、これに応じて銀行が預り金を戻してくれるという性質のものです。
ここで、預金者による預金の引き出し行為は、預託金払戻し請求権という金銭支払い請求権の行使にあたりますが、このような債権が長い間行使されない状況が続くと、時効によってこの債権が消滅するということが民法には規定されています。
民法(抜粋)
(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。2 以下省略
このように、5年間預金を放置した場合は、法の規定上は、銀行は預金支払い請求権の時効消滅を主張できることとなります。
実際は、まず無いであろうことですが、銀行預金の相続手続はできるだけ早めに取り掛かられることをお勧めします。
まとめ
以上、銀行での被相続人の預金口座の相続手続きについて、必要書類、注意点等についてご紹介してきましたが、戸籍収集や遺産分割協議の進め方など、ご遺族にとっては負担となることもあろうかと思います。
相続手続きは、多くの場合は、煩雑な事務の手間を除けば、流れを確認しつつ丁寧に相続人間での連絡調整に努めていただければ問題なく終えることができる手続です。
ただし、稀に相続の専門家でなければ気づかないような落とし穴がある場合もあります。また、そもそもご遺族が忙しいなかで手がまわらないなどの場合には、専門家に相談してみることも検討されてはと思います。
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行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
宅地建物取引士登録番号(高知)第005010号
Profile
1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。
対応地域
高知県中部:
高知市・土佐市・いの町・日高村・須崎市・佐川町・越知町・仁淀川町・土佐町・大川村・本山町・大豊町・香美市・香南市・南国市
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