相続において大切なのは、故人の意志やその生涯しっかりと家族が受け止め、また、財産の承継にあっては皆が納得できるものであることだと私は考えていますが、相続税の節税に関する話題も世間では多く取り上げられています。
確かに、如何に相続税の納税資金を確保し納税義務を果たすかは、担税力があるとして相続税を課される者の社会的義務の履行として重要なことです。ただし、相続税の節税を求めるが故に、生前に借金までしてアパートを建て、実勢価格よりも相続税算定上一般的に低価額といわれる不動産を相続財産としたものの、相続後はアパートに空室が多く発生し、ローンの利息のみでなく元本の返済にも相続人が窮するなどという状況は、理想的な相続とはなかなか言い難いのではないでしょうか。
とはいうものの、例えば、延納や物納という制度はあるものの、不動産だけを相続する相続人が自己の預金だけでは相続税を賄えないというような状況も生じ得ます。
税務申告や納税相談といった業務は、行政書士ではお受けすることができませんが、ここでは、相続にあたって、最低限押さえるべき相続税の概要を紹介します。
相続税 の 全体額の算出方法について
相続税の算出には、多くの論点がありますが、相続税の対象となる財産については、別稿>「相続財産の範囲と相続税の対象財産の範囲の異同を、高知の行政書士が解説。」をご覧いただき、ここでは、相続税算出方法のアウトラインについて解説します。
【課税価格と基礎控除】
相続税がかかるか、かからないか、まずチェックすべきは、相続税の対象となる財産の価額である「課税価格」と「基礎控除」です。
「課税価格」は、被相続人のプラスの財産から負債などマイナスの財産を控除し、みなし相続財産とされる死亡保険金や被相続人死亡前7年間の贈与を加えて算出します。ここから、「基礎控除」を控除した金額がマイナスとなれば相続税がかかることはありませんが、プラスの場合、相続税がかかる可能性がでてきます。
「基礎控除」は、3000万円+法定相続人の人数×600万円で求められます。
例えば、配偶者と子2人が法定相続人である場合、3000万円+3人×600万円=4800万円が基礎控除額となります。
【課税遺産総額】
上記の課税価格から基礎控除額を差し引き、「課税遺産総額」を求めます。
相続財産の課税価格が3億円、配偶者、長男、次男が法定相続人である場合、3億円-4800万円=2億5200万円が課税遺産総額となります。
【相続税の総額の算出】
この「課税遺産総額」を法定相続割合で分割し、相続税率を乗じて、控除額を控除したものが、各相続人の相続税額となります。
そして、各相続人の税額を合計したものが「相続税の総額」となります。
下図にあるとおり、事例における配偶者、長男及び次男にかかる相続税の総額は、5720万円になります。

法定相続割合からいうと、上記の5720万円の相続税は、配偶者3340万円+長男1190万円+次男1190万円となりますが、これが最終的な相続税の負担となるわけではなく、各相続人の負担する相続税額については、ここからさらに実際の相続割合により算出されることになります。
相続税 の 個別負担額の算出方法について
それでは、上記で確認した5720万円の相続税がどのように相続人に割り付けられ、そして負担するのかをみていきましょう。
配偶者、長男、次男の法定相続割合は1/2、1/4、1/4ですが、法定相続割合と異なる割合で相続した場合を例に、以下相続税の算出方法を解説します。
配偶者60%、長男30%、次男10%の場合、まず、実際の相続割合を「相続税の総額」に乗じます。配偶者5720万円×0.6=3432万円、長男5720万円×0.3=1716万円、次男5720万円×0.1=572万円となります。
そしてさらに、この相続税額から、各種税額控除を控除した金額が最終的に各自が納めるべき相続税の額となります。控除には、贈与税額控除、配偶者控除等があり、その内容は後述しますが、ここでは、配偶者控除だけが適用されるとして事例をみてみましょう。
まず、控除のない長男、次男はそれぞれ上記の相続税額を負担すべきことが確定します。そして、配偶者については配偶者控除が適用され、結論から申し上げると、相続税額1億6000万円までは控除により相続税の負担はかからないこととなります。また、1億6000万円を超える相続税額が算出される場合であっても、法定言相続割合である1/2までの相続にかかる相続税については控除されることとなります。
以上、のこされた配偶者の生活保障から、その相続税負担は政策的に軽減されているといえますが、2次相続つまり配偶者を相続した配偶者が死亡した際には配偶者控除の適用を受ける法定相続人がいないという場合が大半ですので、相続の際には、先を見据えた相続対策も重要であるといえます。

相続税 の 税額加算 と 税額控除 について
以上、相続税額の算出のアウトラインについてはご理解いただけたかと思いますが、相続税額に対する税額加算と税額控除について、以下で少し触れておきたいと思います。
【税額加算】
配偶者、1親等の血族、代襲相続人となる孫などを除いて、兄弟姉妹などが相続人となった場合は、相続税額が2割加算されます。
【贈与税額控除】
相続開始以前7年以内に被相続人から贈与を受けた場合、その贈与分はみなし相続財産として相続税の算定基礎となる財産に含まれることとなります。この贈与の際に贈与税が納付されていた場合、二重課税を避けるため、贈与税額控除が適用されます。
【配偶者控除】
配偶者控除については、前述のとおりです。
【未成年者控除】
相続人のなかに未成年者がいる場合、その者が18歳に達するまでの年数1年につき、10万円が控除されます。
例えば、15歳10か月の相続人の場合、18歳に達するまでの2年2か月について、端数切上げのうえ、10万円×3年=30万円が未成年者控除として相続税額から控除されます。
【障害者控除】
相続人のなかに障害者がいる場合、その者が85歳になるまでの年数1年につき、10万円が控除されます。なお、特別障害者は1年につき、20万円が控除額とされています。
【相次相続控除】
被相続人がその死亡以前10年間の間に相続人として財産を相続している場合に適用の可能性がある控除です。
【外国税額控除】
相続財産が外国にも存在し、その相続に外国でも相続税がかかった場合に、二重課税を避けるため適用される可能性がある控除です。
まとめ
以上、相続税について、主にその課税計算の概要をみてきました。
相続税の節税も大事なことですが、誰に財産を遺すか、相続人間でどのように遺産分割をするかは相続人が円満に引き継ぐことが、相続においては最も重要です。この大前提を検討したうえで、相続税の概要をもとにその節税について考えてみてはいかがでしょうか。
弊所では、相続税にも留意した相続の相談対応が可能です。また、相続税自体のご相談についても、提携の税理士にご紹介が可能ですので、ぜひ専門家に相談することを検討されてみてはいかがかと思います。
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この記事の執筆者
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行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
宅地建物取引士登録番号(高知)第005010号
Profile
1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。