
法定後見や任意後見制度においては、判断能力が不十分となった本人の「行為能力」を制限することによって、本人保護と取引の安全が図られていますが、これらの制度を本質的に理解するためには、民法上の権利能力及び意思能力についても併せて理解する必要があります。
権利能力について
権利能力とは、私法上の権利・義務の帰属主体となる地位・資格をいい、これを欠く者には、所有権などの権利や債務履行などの義務が帰属しないこととなります。
自然人と法人に権利能力が認められます。
当たり前の概念のようにも思えますが、例えば、私たちの生活にも根付く株式会社や社団法人などの「法人」が、不動産を購入しようとした場合に、そのための契約を株主などの構成員全員でしなければならないとするならば、非常に不便です。
そこで、法人があたかも自然人のように自らの名において契約をし、訴訟をし、不動産登記ができることを可能にした法技術が法人なのです。会社や一般社団・財団法人などは登記の有無によって存在するかしないかの区別を受けますが、市町村の認可を受けない町内会や同窓会などは、権利能力無き社団とされ、不動産登記の名義人になれないなどの権利義務の帰属主体性が一部欠落します。
一方、自然人の権利能力については、出生から死亡まで、すべての人に権利能力が認められます。これを、権利能力平等の原則といいますが、封建的身分制度から解放され、かつての奴隷のように私権の主体となりえない者は存在しないということを意味します。
まず、自然人の権利能力の始期についてですが、民事上の自然人の出生とは、刑法上の一部露出とは異なり、生きて母体から完全に分離することをいい(全部露出説)、また、戸籍上の記載と実際の出生時期が異なる場合には、実際の出生時から権利能力が認められます。
ただし、自然人の権利能力の始期には、3つの例外が存在します。すべて胎児についてですが、①不法行為に基づく損害賠償請求、②相続、③遺贈については、「胎児は、既に生まれたものとみなす。」と規定されています。ただし、胎児である間にこれらの権利が帰属しているのではなく、無事に生まれてはじめて胎児のときに遡って権利能力があったとして扱う(停止条件説)とするのが判例の立場です。
胎児が胎児の間に権利を取得するとする解除条件説も、死産の場合には遡って権利能力が消滅するとするので、相続の場合には両説に差異はありませんが、胎児の間に胎児の法定代理人をつけることができるかという点について異なる結論が導かれます。
次に、権利能力の終期については、自然人は死亡した時に、法人は清算結了時に権利能力が消滅します。
なお、自然人が一定期間生死不明の場合に、死亡を擬制する失踪宣告制度については、従来の住所・居所を中心とする権利関係を確定するものであって、その者が生存している場合にはその者の権利義務を消滅させるものではありません。ただし、従来の住所・居所を中心とする権利関係において死亡が擬制されるところ、相続が発生します。
意思能力について
意思能力とは、自己の行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力をいいます。自分の行為によって自分の権利義務にどのような変動が生ずるのかが理解できる程度の能力で、およそ7~10歳の子供の精神能力といわれます。
幼年者、重度の精神障害者、泥酔者など、意思能力がない者を、意思無能力者といい、意思無能力者のした法律行為は無効とされます。
ここで、蛇足として法律行為の意義について記述をしておきます。
民法の規定は、一定の事実を原因として権利・義務が変動する、という形で規定されており、この一定の事実は「法律要件」、権利・義務の変動を「法律効果」といいます。
そして、法律行為は、一定の法律効果に向けられた意思の外部への表明である意思表示を主たる要素とする「法律要件」です。
売買契約についてみる場合、買いたいという意思表示(申込)と売ろうという意思表示(承諾)はともに、法律行為であり売買の「法律要件」を満たします。「法律要件」が満たされると、①所有権の移転、②代金債権の発生、③引渡し債権の発生という「法律効果」が発生します。
よって、意思(意欲)の通知であっても、法律効果(権利・義務の変動)に向けられたものでない場合、意思表示とはいえない以上、法律行為ではありません。時効中断のための催告や弁済受領の拒絶などがこの類型に当てはまります。
また、通知の内容に意思(意欲)さえ含まない単なる事実の通知の場合も法律行為ではありません。これは観念の通知と呼ばれます。社員総会の招集通知、代理権を与えた旨の表示、時効中断事由としての承認、債権譲渡の通知・承諾などがこの類型に当てはまります。
ただし、以上の法律行為でない類型(準法律行為)についても、意思表示・法律行為の規定が適用される場合があります。この適用については、一律に決せられるものではなく、準法律行為の各制度趣旨に鑑み、個別に判断されます。
行為能力について
行為能力とは、自らの意思により法律行為の効果を確定的に自己に帰属させる能力をいいます。
「成年後見制度の概要について」(→詳細はこちら)で触れたとおり、この行為能力が制限される者を類型化した制度が、未成年、後見、保佐、補助として民法に定められています。
制限能力制度では、各類型の者の判断能力に応じて取消権などの本人保護規定を備えていますが、意思能力との関係でいうと、本人保護の観点から、意思無能力者を含み意思能力はあるのだが取引社会の通常人と比べ判断能力に劣った者を広く対象としています。
以上、権利義務、意思表示、行為能力について、その帰属主体性に関する概略を紹介しましたが、これらの帰属主体性を備え行為さえすれば法律効果が認められるものではなく、特に意思表示については、その態様如何によって有効か否かが決せられる論点が数多く存在します。錯誤、通謀虚偽表示、心裡留保などが民法上規定されており、これについては(>意思表示の瑕疵についての解説)をご覧ください。
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この記事の執筆者
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行政書士ライフパートナーズ法務事務所
代表行政書士 宅地建物取引士 森本 拓也
TAKUYA MORIMOTO
Profile
1993年3月
高知県立追手前高校 卒業
1993年4月
立命館大学産業社会学部 入学
イギリス留学を経て、行政書士資格取得後公務員として約20年勤務した後、行政書士ライフパートナーズ法務事務所開設。